私のカクゴ

社会福祉法人ふるさと福祉会 園長 山下卓
やましたたかし

山下卓

東京都生まれO型
職業:社会福祉法人ふるさと福祉会 園長
趣味:旅行
座右の銘:消えてなくなるものに渾身の力をそそげ

1990年成蹊大学経済学部卒業。新卒で第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。
2002年社会福祉法人ふるさと福祉会東京多摩学園入職。2005年より園長就任。

オフィシャルサイト

来歴

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なぜ今の仕事に?

私の弟は生後2か月で幽門狭窄の手術を全身麻酔で行い、それが原因で知的に障害を負うことになりました。すぐに障害が分かったわけではなく、その後成長するまで分からなかったのです。ある日の夜中に父が弟を抱いてすすり泣いていたのを覚えています。あの時知らされたのでしょう。当時はまだ知的障害への理解は得られず、本人はもちろん家族の悲しみや苦しみもあまり言えませんでした。父と母が施設を運営し、知的障害者とその家族を必死に救おうとしている姿を見て、私もやらなくてはと決心し、勤めていた銀行を退職しました。自分の身の回りのことができない弟の世話をしてきたので、仕事の大変さは承知していましたが、障害をもつ弟の家族としては、最大限努力しなくてはという気持ちと、私がやらなければという使命感もありました。ただ父母に相談せずに辞めたので、あとで怒られました。

現在の仕事への想い

東京多摩学園は知的障害がある人が40名暮らしています。私は学園の園長として一緒に暮らしています。仕事なのに暮らすという表現はおかしいかもしれませんが、暮らすことが仕事なのです。学園に来る人は、家族のもとを離れてやってきます。ここに来る理由は人によって違いますが、家族のもとでは暮らすのが難しくなった人たちです。知的障害がある人でも、ある程度のサポートがあれば、家族のもとや自立が可能な人もいますが、学園に来る人はそれが難しい人たちです。また知的障害もIQが普通より低い人から、私の弟のようにIQ計測不能な人もいます。知的障害のある人は一人で生きていけません。また、他者との交流があって初めて生活が豊かになります。私は40名全員が家族だと思えるように、一緒に食事をとり、時には父のように、時には兄のように接することを大切にしています。彼らが一人ではなく、苦楽を共にする仲間がいて、学園に来て幸せだと思えるように努力しています。

あなたにとって覚悟とは

実際に社会に出て働きはじめると様々なことを同僚やお客様とお話しますが、銀行に勤務していた期間、知的障害についての話はしませんでした。また、自分の弟に知的障害があることを話すことも躊躇しました。なぜなのか。知的障害について皆知らないし、たとえ知っていたとしても、家族内の話であって、皆が知る必要もないことに気が付きました。実際には弟は家族内でしか存在しないのです。本人・家族が望んで知的障害になっている人はいないと思います。認知能力やコミュニケーション能力が著しく低い人たちをどうしたら社会に認めてもらい、同胞として受け入れてくれるのか、いつも考えていました。学園では閉鎖的なイメージを打破するために、レストランを造り、一般の方々に椎茸作業場を開放し、学園をオープンな場所にしています。とても難しい課題だと思いますが、この問題は脳に損傷を与えられれば誰にでも起こり得ることですから、私たちが知的障害の現状を知ってもらうよう行動しなくてはいけないと思っています。

カッコイイ大人とは?

園長としていつもイメージしているのは、弟がお世話になっていた栃木県足利市にあるこころみ学園故川田昇園長です。私は故川田昇園長の足元にも及びませんが、少しでも近づくことができればと思っています。先生は、消えてなくなるものに渾身の力をそそげと。生きているものは、いつかは消えてなくなるものだけど、そこに渾身の力をそそげば、命は与えられると言っていました。なぜそれが、カッコイイかと申し上げますと、本当にそうなっているからです。11月のこころみ学園の収穫祭を訪れてみてください。故川田園長が渾身の力をそそいだ葡萄棚の下で、1万人を超える人たちがワインを飲みに来ています。また故川田園長はこうも言っていました。どんな人間にも役割があるのです。お前と弟にもきっと何かあるぞ。自分の役割を見つけ、それを全うする人がカッコイイ大人だと思います。

今後の展望

日本では知的障害者として108万人が認定されていますが、潜在的には約280万人が知的障害者に該当するといわれています。(先進国では人口の2%といわれています)国が認定した108万人のうち、すでに生活の安全が確保されている状態の人数は施設入所者の11万人、それ以外に残る97万人は家族が支えています。私は今年で53歳、弟は50歳になります。仕事でやっているとはいえ、すでに介護期間が50年となります。父母は元気でいてくれていますので助かっていますが、父は85歳、母は78歳です。家族として責任を果たさないと思うのですが、最近心が堪えるのにきついこともあります。私の弟は一人で家においておけないので、家族の誰かが付き添ってあげる必要があります。家族の誰かが自分の時間を介助に費やさなければなりません。私たちは運よくここまできましたが、少し躓けばどうなっていたかわかりません。今後は知的障害者とその家族が抱える問題を多くの人に理解してもらい、知的障害者とその家族が安心できる社会を目指したいです。

若者へのメッセージ

私たち父母の時代は、戦争に負け、世の中の価値観が180度転換しながらも、懸命に働き、今の日本の土台を築き上げました。私たちの世代は平和な時代しか経験していませんが、ここ20年の文明の進歩と反比例して、人の心が荒れてきているような気がします。私が一番心配しているのは、知的障害のある人たちは、心ある人がいないと幸せにはなれません。今の時代、見たくないものは見なくてすみますし、人の心など見えないものは信じられない時代でもあります。それでも尚、若い人しか感じられないことがたくさんあります。機会があれば、人の苦しみや悲しみに触れていただき、ときには涙を、ときには怒りを感じながら、自分の苦しみや悲しみさえも表現できない人たちもいることを心の何処かにとどめて欲しいと思います。若い人たちが優しさと強さを持ち、この国が良い国であり続けることを願います。

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